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2024年2月18日日曜日

「H3」ロケット2号機 打ち上げ成功

 






「H3」ロケット2号機 打ち上げ成功 前回の失敗乗り越える

日本の新たな主力ロケット「H3」の2号機が17日午前、打ち上げに初めて成功しました。激しさを増す宇宙ビジネスをめぐる国際競争で今後の日本の宇宙開発を担う“切り札”として対抗していくことが期待されます。

「H3」の2号機は17日午前9時22分すぎ、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられました。

JAXA=宇宙航空研究開発機構によりますと、2号機は補助ロケットや1段目のエンジンを切り離しながら上昇を続け、午前9時40分ごろ、ロケットの2段目のエンジンの燃焼が停止し目標の軌道に到達したということです。

その後、搭載した2つの超小型衛星を切り離して軌道に投入したほか、アルミ製の模擬衛星の分離動作も確認するなど計画どおりに飛行し、打ち上げに初めて成功しました。

「H3」は去年3月に打ち上げた初号機では2段目のエンジンが着火せず打ち上げに失敗していて、JAXAなどはおよそ1年かけて対策を講じ、17日の打ち上げに臨んでいました。

「H3」は、現在運用されているH2Aに代わる新たな主力ロケットで、激しさを増す宇宙ビジネスをめぐる国際競争で今後の日本の宇宙開発を担う“切り札”として対抗していくことが期待されます。

JAXA会見 山川宏理事長 “こんなにうれしい日はない”

 

JAXAは午後0時半すぎから記者会見を開きました。

会見の冒頭でJAXAの山川宏理事長は「ロケットは計画どおりに飛行し機体を所定の軌道に投入し衛星を分離できたことを確認した」と発表したうえで「H3ロケット試験機1号機の打ち上げ失敗を受け原因究明に真摯(しんし)に向き合い、再発防止に向けて全力を挙げて取り組んできた。本日、打ち上げの結果を報告できたことに安どしている」と述べました。

また「宇宙業界に長らくいるがこんなにうれしい日はなく、こんなにほっとした日はない」としたうえで「H3プロジェクトのスタートから10年にわたって継続的に努力されてきた皆様に本当に感謝している」と述べました。

開発責任者「打ち上げは成功」

 

開発責任者のJAXA 岡田匡史プロジェクトマネージャは「お待たせしました。H3が産声をあげることができ、ものすごく重い肩の荷が下りた気がします」と笑みを浮かべながら述べました。

記者から今回の打ち上げについて採点すると何点になるかと問われると「満点です」と答えたうえで「H3はまだ打ち上げを2回経験しただけ。これからが勝負なのでしっかりと育てていきたい」と今後の抱負を述べました。

そして「いままで35年ぐらいロケットの仕事をしてきて、大きな節目になるタイミングで成功できてよかった」と話したうえで、次の世代に伝えたいこととして「ロケットの失敗はやってはいけないことです。ただ、失敗があるとエンジニアはものすごく強くなる。この1年で強くなったエンジニアにあとはよろしく頼むぞという思いです」と期待を込めていました。

また、今回の打ち上げが成功したのか問われ「成功しました。成功と失敗の境目は難しいですが、今回の結果からすると成功と報告できると思っています」と述べました。

岡田プロジェクトマネージャは17日夕方、NHKの取材に応じ「まずは『H3』を1人前の大人にしないといけない。いろんなバリエーションの衛星に対応させることなど、世の中がロケットに求めている姿に『H3』をあわせていく素地ができた段階だ」と述べました。

その上で「コストダウンもまだ道半ばだ。部品の調達などで効率化を図るとともに、作り続けることで習熟度を上げ、製造中の不具合を減らすなど全面的にコストダウンを図りたい。一方で、日本のロケットだからという信頼性や価値を売りにして打って出るのが攻め口だと思っている」と述べました。

専門家「ようやく国際競争の場に立つことができた」

 

宇宙政策に詳しい笹川平和財団の角南篤理事長は「欧米の民間企業に加えて中国、それに、インドの台頭で打ち上げをめぐる国際環境が厳しくなる中で、去年、初号機が失敗し、さらに1年遅れたという状況を考えると、本当に『待ったなし』の状態だったと思う。そういう意味ではようやく日本が国際競争の場に立つことができたという状況だ」と指摘しています。

その上で「去年の各国の打ち上げ実績を見ると、ほぼ半分がアメリカで、打ち上げのコスト面や柔軟性、より顧客のニーズに合ったサービスなど課題がたくさんあると思う。日本の宇宙開発はここ数年、失敗が相次ぎ、世界から大きく遅れてしまったという雰囲気があったが、今回の成功はわれわれが再び自信を持つ機会になった。日本が宇宙開発で世界をどうリードできるかもういちど見つめ直し、官民を挙げて宇宙産業を育てていくことが必要だ」と述べました。

岸田首相「長年にわたる努力に敬意」

 

岸田総理大臣は旧ツイッターの「X」に「本日、『H3』の2号機の打ち上げが成功した。無人探査機『SLIM』の月面着陸成功に続いて宇宙分野ですばらしい成果が得られたことは大変喜ばしい。関係者の長年にわたる努力に敬意を表し、今後もわが国の基幹ロケットが着実に実績を積み重ねることを期待する」と投稿しました。

宇宙政策を担当する高市科学技術担当大臣は談話を発表し「本日、『H3』の2号機の打ち上げが成功した。わが国の宇宙政策の最重要課題であるロケット打ち上げ能力の抜本的強化に向けた新たな一歩であり、大きな飛躍だ。今後は海外の打ち上げ需要も取り込んだ『H3』の活用がわが国の経済成長につながることも期待している」としています。

盛山文部科学大臣は、文部科学省のホームページで談話を発表し「すべての関係者が諦めることなく、難易度の高い技術にひたすら向き合い、本日の打ち上げまで着実かつ確実に10年にわたる日々を進めてこられたことに、心から敬意を表したいと思う。今後、H3ロケットが、技術を蓄積・成熟させ、わが国の宇宙基本計画の着実な実施に貢献するだけでなく、国内外の多様な打ち上げ需要を担う素晴らしいロケットとなることを期待している」としています。

SNSでは飛行機から撮影した動画が話題に

SNSでは、「H3」の2号機の打ち上げを飛行機の機内から撮影した動画が話題を集めています。

動画には、ロケットが雲を突き抜けて上昇し、青空に向かって飛んでいく様子が映っています。

撮影した20代の女性は、17日朝8時すぎに伊丹空港を出発し、那覇空港へ向かう飛行機に搭乗しました。

飛行中の午前9時20分すぎに機内で「H3ロケットが打ち上げられる」というアナウンスがあったあと、左側の窓からロケットが見えたということです。

ほかの乗客からも歓声があがっていたということで「初めてロケットの打ち上げを見ることができました。すごかったです」と話していました。

17日 9:40ごろ

開発責任者ら 抱き合って喜ぶ

JAXAが公開した中継映像では発射場の総合司令棟にいる開発責任者、岡田匡史プロジェクトマネージャなどエンジニアたちが抱き合って喜ぶ様子が見られました。

17日 9:40ごろ

プレスセンターでもJAXA職員ら涙流す

「H3」の2号機の機体が計画どおり飛行し、初号機では着火しなかった2段目のエンジンの燃焼が停止したことが確認されて目標の軌道に到達したことがわかると、鹿児島県の種子島宇宙センターにあるプレスセンターではJAXAの職員らが目に涙を浮かべながら喜ぶ様子が見られました。

17日 9:40ごろ

JAXA「機体が計画どおり目標の軌道に到達した」

 

JAXAは17日午前9時40分ごろ、「ロケットの2段目のエンジンの燃焼が停止したことを確認した」と発表し、機体が計画どおり飛行し目標の軌道に到達したと明らかにしました。

17日 9:22

種子島宇宙センターから打ち上げ

日本の新たな主力ロケット「H3」の2号機が17日午前9時22分すぎ、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられました。

17日 9:12

最終判断の結果「GO」

新型ロケット「H3」の2号機についてJAXAは午前9時22分55秒の打ち上げに向けて最終判断の結果、「GO」となったと発表しました。

16日 午後

組み立て棟から姿現す

 
ゲートから出て発射地点に移動するロケット

「H3」の2号機は17日午前9時22分に種子島宇宙センターから打ち上げられる予定で、これを前に16日午後3時ごろ、組み立て棟から姿を現し、30分かけて発射地点に移されました。

JAXAによりますと、17日の打ち上げ時間帯の天候はおおむね晴れで、気象条件に問題はないということです。

今回の打ち上げでは、初号機ではできなかった2段目のエンジンが計画どおりに燃焼し、地球を周回する軌道にロケットを投入させることを大きな目標としています。

また、ロケットの性能を確認するため衛星を分離する動作を実証することにしています。

打ち上げに失敗した初号機

「H3」は現在運用されているH2Aに代わる日本の新たな主力ロケットで、JAXAと三菱重工業が10年前に開発に着手しました。

日本の大型ロケットとしては30年ぶりの新規開発で、開発費用は2000億円を超えています。民間企業の参入で宇宙ビジネスをめぐる国際競争が激しさを増す中、今後の日本の宇宙開発の行方を左右する「H3」の打ち上げが初めて成功するか注目されます。

前日16日朝 宇宙ファンが続々と

種子島の玄関口である西之表港には、前日の16日朝、鹿児島港から高速船でロケットの撮影機材などを抱えた人たちが続々と到着していました。

仕事を休んできたという鹿児島県霧島市の60代の男性は「H3の2号機のリターン・トゥー・フライト、再挑戦を目の当たりにしようと思ってきました。技術者の努力が報われてくれることを願っています。絶対、成功すると信じています」と話していました。

去年3月の初号機の打ち上げの際も見に来たという徳島県の小学4年生の女の子は「前回、ロケットの打ち上げに失敗した時、いつ飛ぶのかなと気になっていました。あすはちゃんと宇宙まで飛んでいってほしいです」と話していました。

ホテルは満室… 公園で

種子島では、多くの宿泊施設がすでに満室となっているため、南種子町の「宇宙ヶ丘公園」ではテントやキャンピングカーで過ごしながら、打ち上げを待つ人たちの姿が見られました。

13日から妻と9か月の子どもとキャンピングカーで寝泊まりしているという兵庫県姫路市の30代の男性は「宿が取れなかったので、キャンピングカーを借りました。きのう打ち上がる前提で帰る予定だったのですが、宇宙センターでJAXAの岡田プロジェクトマネージャと話す機会があり、打ち上げを見ないと帰れないと思い、とどまることにしました。子どもにもロケットの記憶が少しでも残ってくれたらと思います」と話していました。

初号機打ち上げ失敗 原因は

「H3」は去年3月に初号機が打ち上げられましたが、2段目のエンジンが着火せず打ち上げに失敗しました。このためJAXAはおよそ半年間にわたって原因の究明を進めてきました。

ロケットは1段目と2段目の分離まで計画どおり飛行し、その後に2段目のエンジンが着火しなかったことが分かっていて、飛行データを分析し、同じ現象を再現する試験などに取り組んできたということです。

そして、2段目のエンジンに搭載された機器の一部に損傷が発生したことが原因だと結論づけ、損傷の要因を大きく3つに絞り込みました。

2023年3月 打ち上げ直後の初号機

このうち2つは運用中の「H2Aロケット」と共通する部品が関係しているケースで、
▽製造時の部品のずれや打ち上げ時の振動などによって着火直後に点火装置でショートが発生したというものと、
▽点火装置の内部にある電気の流れをコントロールするトランジスターが、地上の点検などで過度の電圧に耐えられなくなっていてショートしたというものです。

残る1つは「H3」だけに搭載された機器が関係するケースで、
▽2段エンジンを制御する部品の一部が故障してショートしたというものです。

JAXAはこの3つの要因についてそれぞれ対策を講じ、点火装置の部品を強化したり、製造検査を厳しくしたりしたほか、ショートの原因となりうる機器の設計を一部変更したとしています。

国際的に激化する宇宙開発競争

宇宙開発をめぐっては近年国際競争が激しくなっています。

内閣府によりますと、去年、世界で成功した打ち上げは過去最高の212回に上りました。このうちアメリカが半数以上の108回を占め、そのうちのおよそ9割はイーロン・マスク氏がCEOを務める宇宙開発企業「スペースX」によるものでした。

中国が68回、ロシアが19回、インドが7回、フランスが3回と続きますが、日本は2回にとどまりました。

アメリカの大手投資銀行「モルガン・スタンレー」の試算では、宇宙ビジネスの市場規模は、2040年には2020年の3倍にあたる1兆ドル規模まで拡大すると見込まれています。

アメリカがリードし、各国がしれつな競争を続ける中で、日本の新たな切り札「H3」が、その市場に食い込んでいけるかが鍵となっています。

今後の打ち上げ計画は

新型ロケット「H3」は現在主力の「H2A」の後継機として運用される計画です。

「H2A」はことし1月(2024年)に48号機を打ち上げていて、2024年度の50号機までで製造を終え、2025年度以降「H3」に切り替えられる予定です。

内閣府の宇宙基本計画によりますと、「H3」の打ち上げは、2024年度以降に地球観測衛星の「だいち4号」や、“日本版GPS衛星”とも言われる「みちびき」の5号機、宇宙ステーションに物資を補給する輸送船の「HTV-X」など、2032年度までに少なくとも22回計画されています。

海外の商業衛星の受注も

「H3」による海外の商業衛星打ち上げはイギリスの衛星通信大手からすでに1件受注しています。

「H2A」では5件にとどまっている受注を増やしたい考えです。

「アルテミス計画」にも

さらに、地球から遠く離れた月や火星の探査にも活用され、火星の衛星からサンプルを地球に持ち帰る探査機のほか、月の南極に着陸し氷の量などを調べる探査機を打ち上げる計画です。

また、2030年にはアメリカが進める国際的な月探査プロジェクト「アルテミス計画」で月を周回する新たな宇宙ステーション「ゲートウェイ」に物資を運ぶ予定にもしています。

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2024年2月11日日曜日

仮説上の「暗黒光子」を検出する装置を開発

 






この宇宙に銀河が存在している以上、その回転速度は重力で恒星を引き留められる限界の速度よりも低いはずです。ところが銀河の回転速度を実際に調べてみると、恒星の数をもとに見積もられた銀河の質量から推定される重力では、恒星を引き留めることが不可能なほど高速で回転していることがわかっています。この観測データは、光などの電磁波では観測できず、重力を通じてのみ間接的に存在を知ることができる「暗黒物質 (ダークマター)」の存在を示唆しています。暗黒物質は電磁波で観測できる普通の物質の4倍以上もの量があると算出されているにもかかわらず、その正体は現在でも不明です。

正体不明の暗黒物質、その有力な候補の1つは未知の素粒子です。もしそうだとすれば、未知の素粒子はどのようにして相互作用しあっているのでしょうか?

素粒子同士の基本相互作用は4つ (重力相互作用、電磁相互作用、強い相互作用、弱い相互作用) ありますが、暗黒物質の性質上、重力相互作用以外の基本相互作用は働いていないか、あるいは相当に弱いと推定されます。この場合、暗黒物質を構成する未知の素粒子同士は「5番目の基本相互作用」とでも形容すべき、これまた未知の相互作用で引き合っていると推定することもできます。

基本相互作用には力を媒介する素粒子(ゲージ粒子)がそれぞれ存在していますので、暗黒物質同士の相互作用を担うのも素粒子であるはずです。このような推定の元で考案されたのが「暗黒光子 (Dark photon)」です。暗黒光子という名前は、光を構成して電磁相互作用を媒介する光子に似た性質を持つものの、観測されていないことから付けられています。

ユニークなことに、暗黒光子はわずかながらも質量を持つと推定されています。これは質量がゼロの光子とは異なる特徴です。このため、暗黒光子は暗黒物質同士を結び付ける性質を持つとともに、それ自身も暗黒物質の一部を占めていると推定されています。

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また、暗黒光子は、極めて弱いながらも電磁相互作用に反応すると推定されています。このため、暗黒光子は暗黒物質でありながら直接検出できる可能性があります。ただしその反応は極めて弱いと推定されるため、観測手段の技術面が追い付いていませんでした。

【▲ 図1: 1個の電子で暗黒光子を検出する装置の冷却装置 (左) と、電子が浮遊する磁気トラップ (右上) 。もし電子が暗黒光子と相互作用した場合、左下のような信号が検出されるはずである。この図のシグナルは模擬試験としてμ波照射によって人為的に生み出したものである。 (Image Credit: Xing Fan) 】
【▲ 図1: 1個の電子で暗黒光子を検出する装置の冷却装置 (左) と、電子が浮遊する磁気トラップ (右上) 。もし電子が暗黒光子と相互作用した場合、左下のような信号が検出されるはずである。この図のシグナルは模擬試験としてμ波照射によって人為的に生み出したものである。 (Image Credit: Xing Fan) 】

ハーバード大学のXing Fan氏らの研究チームは、暗黒光子を検出できる装置の開発と、実際に装置を用いた実験を行いました。電磁相互作用に反応する素粒子として良く知られているものに「電子」があります。現在の技術レベルならば、たった1個の電子を磁気トラップの中で真空中に浮遊させ、長期間維持することも可能です。

【▲ 図2: 極低温の磁気トラップにある1個の電子は最低のエネルギー状態にある。暗黒光子が電子に衝突すると、電磁相互作用によりエネルギーが与えられることで、電子は高いエネルギー状態になる。この状態は不安定なので、電子は与えられたエネルギーと一致する光子を放出して再び最低のエネルギー状態に戻る。これにより、暗黒光子の存在と質量を測定可能である。 (Image Credit: Harikrishnan Ramani) 】
【▲ 図2: 極低温の磁気トラップにある1個の電子は最低のエネルギー状態にある。暗黒光子が電子に衝突すると、電磁相互作用によりエネルギーが与えられることで、電子は高いエネルギー状態になる。この状態は不安定なので、電子は与えられたエネルギーと一致する光子を放出して再び最低のエネルギー状態に戻る。これにより、暗黒光子の存在と質量を測定可能である。 (Image Credit: Harikrishnan Ramani) 】

Fan氏らはこの技術を元に、暗黒光子を検出する装置を開発しました。1個の電子を磁気トラップの中で浮遊させ、背景にある無関係なノイズを排除するために極低温下に置きます。この状態になると、電子は最低のエネルギー状態に置かれることになります。

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もしも暗黒光子が実在すれば、電子と時々衝突するはずです。すると、わずかながらも電磁相互作用で反応する暗黒光子は、電子にエネルギーを与えます。エネルギーを受け取った電子は再び最低のエネルギー状態に落ち着こうとしますが、この時に受け取ったエネルギーを普通の光子の形で放出します。この方法を利用すれば、暗黒光子の存在を直接検出できるだけでなく、その質量を知ることができるというわけです。

今回の研究では装置の開発にあわせて実際に実験が行われましたが、残念ながら7.4日間の実験中に有意な信号は検出されませんでした。実験の設定から、暗黒光子は0.6meV (1.1×10^-39kg、電子の約10億分の1) の質量では存在しない可能性があることがわかります。今回は実験期間が短かったので、より長時間の実験を行えば観測される可能性もありますが、期間中に観測ができなかったことから逆算して、体積あたりの存在数の上限値を定めることができます。

今回の実験手法は、設定を変えることで0.1meVから1meVの質量の範囲内で暗黒光子の存在を探索することができます。もしも暗黒光子が見つかれば、他の暗黒物質の存在も示唆されると共に、これまでの理論では予測されていない未知の素粒子が実在することを示す強力な証拠となります。逆に、暗黒光子の存在が見当たらないという結果になったとしても、暗黒物質の探索において重要な結果を提示することになります。

 

Source

  • Xing Fan, et.al. - “One-Electron Quantum Cyclotron as a Milli-eV Dark-Photon Detector”. (Physical Review Letters)
  • Ingrid Fadelli. - “Study demonstrates a new method to search for meV dark photons”. (Phys.org)

文/彩恵りり

宇宙 ビッグバンは「2回」








 sorae 宇宙へのポータルサイト生み出した「暗黒ビッグバン」が提唱される


  • 【▲ 図1: 宇宙における普通の物質、暗黒物質、暗黒エネルギーの割合。暗黒物質は普通の物質の4倍以上も存在する(Credit: 彩恵りり)】

    この宇宙に銀河が存在している以上、その回転速度は重力で恒星を引き留められる限界の速度よりも低いはずです。ところが銀河の回転速度を実際に調べてみると、恒星の数をもとに見積もった銀河の質量から推定される重力では、恒星を引き留めるの不可能なほどの高速で回転していることがわかっています。この観測データは、光 (可視光線) などの電磁波では観測することができず、重力を介してのみ間接的に存在を知ることができる「暗黒物質 (ダークマター、Dark matter)」の存在を示唆しています。暗黒物質は電磁波で観測できる普通の物質の4倍以上もの量があると算出されているにもかかわらず、その正体は現在でも不明です。

    暗黒物質という名前は、この物質が光では観測することができない、言ってみれば “暗い・暗黒の (dark)” 存在であることに由来します。暗黒物質の正体を探るには様々な角度からのデータを分析する必要があります。その1つは、宇宙誕生後に暗黒物質が生じたタイミングです。暗黒物質誕生の経緯や条件を探ることで、その正体を絞り込むことができるでしょう。

    しかしその前に、私たちが観測することのできる「普通の物質」がいつ誕生したのか、という話から説明しましょう。この宇宙では誕生直後、インフレーションと呼ばれる非常に急激な膨張の時代があったと推定されています。インフレーションも原動力の詳細はわかっていませんが、インフレーションの力の源となる特殊な「場」 (※1) が存在したと推定されています。この「場」はインフレーションの時代が終わると急激に崩壊し、大量のエネルギーを放出します。この現象は一般的に「ビッグバン」と呼ばれています。放出されたエネルギーの一部は素粒子の形となり、私たちが知る物質へ変化したと考えられています (※2) 。その後、宇宙は膨張によって冷え続け、宇宙の誕生から約20分後には素粒子同士が結合して原子核の素となる陽子や中性子が生成され、約38万年後には原子核と電子が結合して原子が生成されたと考えられています。

    ※1…「場」とは、簡単に言えば、重力が働く範囲は重力場、磁力が働く範囲は磁場というように、何らかの種類の力が働く範囲のことを指します。

    ※2…厳密には、物質同士の相互作用の源となる放射も同時に生成されています。

    では、暗黒物質はいつ誕生したのでしょうか。従来は、暗黒物質も普通の物質とともにビッグバンの時に生成されたと考えられていました。これは、ビッグバンのタイミング以外に、場が崩壊して大量の物質が生成されるようなイベントが知られていないためです。しかしその場合、暗黒物質の性質とは矛盾する結果が出るという問題があります。それは、暗黒物質が普通の物質とは相互作用しないからです。

    R-

    普通の物質を構成する原子同士は、電磁波による電磁相互作用を介してお互いに結びついています。その一方、暗黒物質が電磁波で観測できないのは、電磁相互作用を全く(あるいはほとんど)しないためであると考えられています。ところが、ビッグバンで暗黒物質が普通の物質と同時に生成されたのだとすれば、暗黒物質と普通の物質との間にもタイミングを合わせるための何らかの相互作用が働いたことが示唆されます (※3) 。このような性質は、現在推定されている暗黒物質の性質とは矛盾しています。

    ※3…暗黒物質の発見の経緯の通り、暗黒物質と普通の物質は重力で相互作用します。しかし、重力相互作用は同じ距離での電磁相互作用と比べて40桁も小さいとみられる極めて弱い力であり、これが何らかの役割を果たしたとは考えられていません。

    それに、普通の物質の何倍もある暗黒物質が生み出されるには、ビッグバンが起きた時にそれだけ大量の物質が生成される必要があります。これは、現在理論的に理解されているビッグバンとは大きく矛盾するプロセスです。この矛盾は、暗黒物質の生成や正体を探る上で大きな謎となっていました。

    【▲ 図2: 従来の熱いビッグバン宇宙論 (左) と、今回提唱された暗黒ビッグバン宇宙論 (右) 。熱いビッグバン宇宙論では、ビッグバンは熱いビッグバン (Hot Big Bang) の1回しか起こらず、普通の物質と暗黒物質は同時に生成したと考えられる。これに対して暗黒ビッグバン宇宙論では、熱いビッグバンの後に暗黒ビッグバン (Dark Big Bang) が発生し、この時に暗黒物質が生成したと考えられる。 (Image Credit: Freese&Winkler)】
    【▲ 図2: 従来の熱いビッグバン宇宙論 (左) と、今回提唱された暗黒ビッグバン宇宙論 (右) 。熱いビッグバン宇宙論では、ビッグバンは熱いビッグバン (Hot Big Bang) の1回しか起こらず、普通の物質と暗黒物質は同時に生成したと考えられる。これに対して暗黒ビッグバン宇宙論では、熱いビッグバンの後に暗黒ビッグバン (Dark Big Bang) が発生し、この時に暗黒物質が生成したと考えられる(Credit: Freese&Winkler)】

    テキサス大学オースティン校のKatherine Freese氏とMartin Wolfgang Winkler氏は、暗黒物質は普通の物質と共に誕生したのではなく、普通の物質とは別の “ビッグバン” で生成されたという仮説を提唱しました。暗黒物質と普通の物質がそれぞれ別のビッグバンで生成されたとすれば、相互作用に関する矛盾は解決します。Freese氏らは、この暗黒物質に関するビッグバンを「暗黒ビッグバン (Dark Big Bang)」と呼んでおり、区別するために従来のビッグバンを「熱いビッグバン (Hot Big Bang)」と呼んでいます (※4) 。

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    ※4…熱いビッグバンの時に物質と同時に放射が性質されたように、暗黒ビッグバンでは暗黒物質同士の相互作用の源となる暗黒放射が生成されたと考えられます。

    【▲ 図3: もしもインフレーション後に場の崩壊が全て起こった場合、場のエネルギーは真の最低状態に落ち込む (ΔV) 。これに対し、局所的な最低状態 (Vb) に落ち込んだ場合には、1回目のビッグバン (熱いビッグバン) で全ての場が崩壊しきらず、2回目のビッグバンが起こる可能性が残る。この局所的な最低状態が暗黒ビッグバンの原動力になったと考えられている。2つのビッグバンの期間の長さは、2つの谷の間にまたがる山の大きさ (ΔΦ) によって決まる。 (Image Credit: Freese&Winkler)】
    【▲ 図3: もしもインフレーション後に場の崩壊が全て起こった場合、場のエネルギーは真の最低状態に落ち込む (ΔV) 。これに対し、局所的な最低状態 (Vb) に落ち込んだ場合には、1回目のビッグバン (熱いビッグバン) で全ての場が崩壊しきらず、2回目のビッグバンが起こる可能性が残る。この局所的な最低状態が暗黒ビッグバンの原動力になったと考えられている。2つのビッグバンの期間の長さは、2つの谷の間にまたがる山の大きさ (ΔΦ) によって決まる(Credit: Freese&Winkler)】

    では、暗黒ビッグバンはなぜ起こったのでしょうか?従来のビッグバン (熱いビッグバン) に対する考え方では、インフレーションの終了後に場が全て崩壊したと考えられていました。これに対して今回の仮説では、場の一部が熱いビッグバンの後にも崩壊せずに残り、それが後の時代における暗黒ビッグバンの原動力になった、と考えています。

    しかし、暗黒ビッグバンに相当する現象は観測されていません。もしも暗黒ビッグバンが実際にあったとした場合、それは観測事実に矛盾しないタイミングだったはずです。Freese氏らは、暗黒ビッグバンのタイミングは宇宙誕生から約1か月後だったと推定しています。これは、1秒未満で様々なイベントが進行した熱いビッグバンと比較すれば、永遠と言えるほど長い期間の後に発生したことになります。

    仮に暗黒ビッグバンが本当に起きていたとしても、それは電磁波で観測が不可能な、宇宙誕生から38万年後よりも前の時代の出来事です。それでは暗黒ビッグバンは観測不可能なのかというと、そうではありません。確かに、電磁波で観測する従来の望遠鏡では、暗黒ビッグバンを知ることは不可能です。しかし、暗黒ビッグバンでは大量の暗黒物質が生成されたことによる影響で、強い重力波が発生したと考えられます。もしもその重力波を直接観測することができれば、それは暗黒ビッグバンの観測的な証拠になるかもしれません。

    ただし、そのような重力波があるとしても、その信号強度は非常に弱いため、実際に観測できるのはずっと先の話になると考えられます。そこでFreese氏らは、代わりにパルサーの連星の観測を提案しています。パルサーは非常に正確な周期で信号を発していますが、重力波の影響によりパルサーが直接揺さぶられることで、この信号にズレが生じると考えられます。そのような現象の観測例が増えれば、暗黒ビッグバンの証拠が見つかるかもしれません。

    暗黒ビッグバンがあったのかどうかが確定すれば、謎の多い暗黒物質の正体について様々な情報が得られるかもしれません。これからの観測が待たれます。

     

    Source

    文/彩恵りり  sorae 宇宙へのポータルサイト生HP引用)

    宇宙の始まりの出来事「ビッグバン」

     







    宇宙の誕生「ビッグバン」から宇宙の進化を表すイメージ図

    現在の宇宙論では、宇宙は138億年前に超高温・超高圧の火の玉が爆発することで始まったと考えられています。この大爆発のことを「ビッグバン(Big Bang)」と呼んでいます。宇宙は超高温・超高圧の状態から始まり、現在も膨張を続けているのです。

    本特集では、宇宙の始まりの出来事「ビッグバン」をわかりやすく解説していきます。

    ※「ビッグバン」の事を「ビックバン(Bic Bang)」と表現されているサイトもありますが、天文現象を表す場合は「ビッグバン」が正しい表記です。

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